日本の常識は世界の非常式!?優先株の10倍ルールとは?

football-1503586まだまだ新しいVCも立ち上がり、日本のスタートアップ・VC業界も引き続き盛況ですね。「元大企業の●●が」とか、「IPO経験のある元●●のCxOが、どこどこのスタートアップに参画!」などというニュースもよく聞くようになりました。

さて、スタートアップに人を呼びこむには、しかるべきインセンティブが必要になるわけですが、その一つにはお馴染みのストックオプションがあります。ただし、日本のストックオプションは米国のそれに比べればまだ洗練されていないのも事実。その理由のひとつに、米国の優先株において、「普通株と優先株の価格差が10倍までは許容される(課税当局からとやかく言われない)」10倍ルール、というものがあります。

「米国では許容」ということは、日本ではとやかく言われる(可能性を否定できない)わけですが、今回は、米国では常識の10倍ルール、そのような価格差を設ける理由についてみてみたいと思います。

10倍の価格差をつける、2つの理由

■1: 創業者の持ち株比率を高くするという観点
(創業後まもなく)普通株式で資金調達をすれば、創業者のシェアは即座に低下してしまいます(同じ普通株を数ヵ月前の株価と何倍も違う株価とするのは通常説明困難なため)。一方優先株式であれば、さまざまな優先権がついているからという建前で、株価を高く設定可能(説明可能)になります。すなわち、創業者のシェアをそれほど下げない資金調達が可能になるわけです。

例1)普通株で資金調達する場合

  • 創業者Aは資本金500万円(@50万、10株)で会社を設立
  • 3ヵ月後、普通株で(同じ株価で)、500万円の資金調達を実施(@50万、10株)
  • Aのシェアは、50%に低下(10株/20株)

例2)優先株で資金調達する場合

  • 創業者Aは資本金500万円(@50万、10株)で会社を設立
  • 3ヵ月後、優先株で(株価10倍とする)、500万円の資金調達を実施(@500万、1株)
  • Aのシェアは、91%にとどまる(10株/11株)

投資家からすれば、一見、普通株で投資したほうがシェアが高く有利なようにみえますが、会社の企業価値を上げるのはあくまで創業者(であることが大半)。そのため、創業者にとって適切なインセンティブが働くように(シェアが低下しすぎないように)、また、今後の追加の資金調達がスムーズに行われるよう調整する必要があります。創業者のやる気がなくなり企業価値が向上しなければ元も子もないですね。

■2: 新たな(大物)従業員等に、株式インセンティブを与えるという観点
スタートアップがCTOやCFOなど大物人材を雇う際、ストックオプション(もしくは生株)をインセンティブとして付与する(生株を売る)ことはよくあります。

それがインセンティブとして機能するためには当然、行使価格(生株の場合譲受価格)が低い方がいいわけです。(将来の向上後の株価との差額がもらった側のもうけ、になるため。)

その場合、すでに優先株での資金調達が実施されており、行使価格が優先株の価格(通常普通株より高い)であれば、もらう側にうまみがない(少ない)わけです。そのため、インセンティブとして使うのは、優先株よりも価格が安い普通株、ということになります。価格差が10倍ということは、仮に直後にExitしても10倍の儲けがあることになります。(実際には直後に株式に転換できませんが)

日本の実態は?

ところが日本では、このあたりの(特に税法上の)定義が明確になっておらず、保守的に、ストックオプションの行使価格(≒発行時の時価)を直近の優先株式の価格と同額に設定することがほとんどといわれています。

もらう側からすれば行使価格は低ければ低いほどうれしいのに(売却額との差額がもうけになるため)、税制適格要件に「ストックオプションの行使価格は時価以上」という定めがあるために、優先株式と同額にしてしまいます。万が一税制非適格と判定された場合の課税タイミングと税率が圧倒的に不利になるためです。

おわりに

適切なインセンティブ設計を行えるようにすることが、ベンチャーに参加する人材を増やし、ベンチャー界を活性化する最も重要な課題の一つ。ストックオプションにせよ生株にせよ、10分の1の価格で買えるか買えないか、というのはインセンティブ構造において大きすぎる違いですね。ベンチャーエコシステムの発展のため、制度の改正のみならず、経営者による正しい理解などもまだまだ必要と思われます。

【関連リンク】
10倍ルール

【参考リンク】
ストックオプション税制のご案内(経済産業省)
未上場企業が発行する種類株式に関する研究会報告書

Pocket

,

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です